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捧げ物

キミに見せたいもの

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「いってきます!」

たかが車で十数分のところへ行くだけだというのに、蔵馬は玄関扉の隙間から名残惜しそうに何度も手を降る。そんな夫に少し困ったような仏頂面で「いってらっしゃい。」と言いかけて、飛影の目は食卓の上で留まった。

「あっ」

忘れ物...そう続けようとした言葉が喉から出てくる前に、パタンと扉の閉まる音が玄関から響いた。

まぁ、いっか。

飛影は立ち上がりかけた腰を椅子に戻し、夕飯で使う絹さやのスジを取り始めた。

コチコチと壁掛け時計の秒針の音だけが部屋の中に響く。時計の針は7時過ぎを指している。

夏休みの間、飛影は蔵馬の店を手伝っている。普段なら閉店後、二人で店を片付けて二人で一緒に帰ってくるのだが、今日は配達がある為、先に飛影だけ家へと送り届けてもらったのだった。

テーブルの奥においてある琺瑯のボールを取ろうとして、さきほど蔵馬が置き忘れたカメラが目に入った。

蔵馬は最近、カメラに凝っている。
そもそもは店のホームページ用の写真を撮るために買ったものなのだが、最近は仕入れや配達の時にも、肌身離さず持って行っている。

そうして家に帰ってくると、「飛影見て見て。」と撮ってきた嬉しそうに見せてくるのだが、お世辞にも蔵馬の写真は上手いとは言えなかった。ピントがあっていなかったり、撮りたいものが遠すぎたり。
あまりにセンスがないので、見かねた雪菜が最近はホームページに載せる写真でさえも撮っているのだ。

飛影は布巾で軽く手を拭うと、手のひらサイズのデジタルカメラに腕を伸ばした。

確か雪菜はここを押せばいいと言ってたはず…

ウィン…

スイッチを入れると小さなモーター音がしてレンズの蓋が開き、液晶画面が白く光る。三角の再生ボタンを押すとメモリーに残った写真がディスプレイに映し出された。

ピンぼけの朝顔、尻尾しか写っていない猫、配達先の和菓子屋のおばあちゃんのブレた笑顔、小さすぎてどこに写っているのかわからない飛行機。
そんな写真の中に、時折、雪菜と談笑している自分の横顔や、料理をしている後ろ姿の写真が混じっていて、ドキリとする。

一体こんな写真いつ撮ってたんだ…

液晶画面にそれらを次々と映しながら、隣の家の花壇が綺麗だったとか、ひぐらしが鳴くのをこの夏初めて聞いたとか、その日あったことを話すのが、最近の蔵馬の夕飯時の恒例になっていた。
たわいもないことを実に楽しそうに話す蔵馬の顔を思い浮かべて、飛影はきつく上がった目尻を少しだけ緩めた。

一体何がそんなに楽しいんだ…

飛影はカメラのファインダーを覗くと、ダイニングテーブル脇の出窓にレンズを向けた。
もう夏至は過ぎたけれど、7時過ぎでも夏の空はまだ明るい。
先程までバケツをひっくり返したように降っていた雨も止み、夕立が去った後の空は、薄灰色の雲に夕日があたって淡い紫色になっている。小さなファインダー越しに見ると、その色が余計に際立って見える気がした。

その四角い枠に縁取られた景色の中で、キラキラと何かが輝いている。少しだけズームをして見ると、出窓の桟についた水滴がオレンジ色の日の光を浴びて、水晶のように光り輝いていた。雫の中で、ベランダに咲いた向日葵の花と紫色の空が上下逆さまにひっくり返っている。

あ、綺麗…

そう思ったら自然と指が動いていた。
カシャン。と軽い音がしてシャッターが切られる。
液晶画面に表示された、光る水滴とその中の逆さまの向日葵を見て、飛影はほんの少しだけ頬を緩ませた。おそらく他人が見たら仏頂面に見える表情。飛影に本当に近しい人しか気付かないであろう笑みを浮かべて、飛影はカメラの電源を落とした。

帰ったら蔵馬に見せてやろう。

カメラをダイニングテーブルの上に起き、作業に戻ろうとした時、玄関からものすごい勢いでドアを開ける音がした。

「飛影ッ!!早く!!今すぐ来て!!!」

尋常でない様子の蔵馬の声に、エプロン姿のまま出ていった飛影の細い腕を蔵馬はむんずと掴んだ。

「早く!!急いで!!」
「おい…ちょっ…!」

靴を履く猶予もなく、つっかけサンダルで家の外に出た飛影を蔵馬はさらにぐいぐいと引っ張っていく。

「ちょっと待て!何なんだ…」
「いいから早く!!」

時間にすればほんの一分ほど。けれど、アスファルトの道をサンダルで走るのはなかなか骨が折れる。蔵馬に腕を引かれ、途中でつまずきながら走り、やっと腕を離されて飛影は夫を睨みつけた。

「だから何なん…!」
「よかった!まだあった!!」

文句のひとつも言ってやろうと思った飛影だったが、蔵馬の嬉々とした声に、顔をその視線の先へと向けた。

最近取り壊した大規模マンションの跡地。住宅街の真ん中にポッカリと空いた大きな空き地。そしてその上にポッカリと広がった薄紫色の空に、大きな二重の虹が掛かっていた。

「あ…」

口を半開きのまま、飛影は空を見つめた。
白く輝く七色の半円。その外側に少しだけ色の薄い半円がもうひとつ。二本の光の橋は、綺麗なカーブを描き、地面すれすれの袂までくっきりと見えている。そのせいだろうか。今まで見たどの虹よりも大きく見えた。

食い入るように虹を見つめていると、自分よりもひと回り大きな手のひらが、右手に触れ、そっと手を握ってきた。

「綺麗だね。」

隣に立つ蔵馬が微笑みかけてくる。自分には勿体ないと何度も思った綺麗な微笑み。それが紫と橙の光の中で、自分に向けられている。

何度だって自分はこの微笑みに恋してしまう。胸がきゅうと締めつけられるようになって
嬉しいような恥ずかしいような気持ちなってしまう。
何と返していいのか分からくなって、飛影はその微笑みに黙ってこくんと頷いた。

「古代中国ではね、虹は龍の一種と考えられていて、二重の虹はつがいらしいよ。」

空に視線を戻して蔵馬が目を細める。

「下の方が飛影かな?小さくて綺麗だから。」
「バカを言え。」

躊躇もなく歯の浮くような台詞を言う夫に半分呆れながらも悪い気はしなくて、飛影は頬を染めた。

そのまま暫く、二人は手を握ったまま歩道に立ち尽くして、虹が袂から薄くなっていくのを眺めていたが、ふいに飛影は、自分達のすぐ後ろに店の車が停められているのに気づいた。しかも助手席と運転席の窓はご丁寧にも開いたままだ。

「おい。この為にわざわざ走って俺を呼びに来たのか?」
「うん。だってどうしても飛影に見せたくて。車でUターンしてる時間も惜しかったから。」

こんなことの為に俺をエプロン姿のまま連れ出したのか?
配達の時間に遅れたらどうするんだ。
車の方が絶対にはやいに決まってる。
窓を開けっ放しにするなんて不用心過ぎる。

いろいろな言葉が次々と浮かんだけれど、悪びれもせず、本当に嬉しそうにニコニコと笑う夫の顔を見たら、すっかり言う気が削がれてしまって飛影は口をつぐんだ。
代わりに、飛影の頭の中にあることがよぎる。

「あっ…」
「どうしたの?」
「カメラ、持ってくればよかった。」

普段なら肌身離さずカメラを持ち歩いている蔵馬だ。わざわざ自分を走って呼びに来るくらいだったのだ。是非にも写真に撮りたいと思ったただろうに。

「あぁ。」

予想に反して、蔵馬はたった今の今まで、カメラのことなど忘れていた、というような声を出した。

「いらないよ。だってほら、今日は飛影と本物を見れたから。」

飛影が蔵馬を見上げると、同じく飛影を見下ろす蔵馬と目が合う。

「いつも飛影にも見せたいな、と思っていろいろ写真に撮るんだけど、なかなか上手く撮れなくてね。本当はこうやっていつも二人で同じものを見れたらいいんだけど。」

あ…
“帰ったら蔵馬に見せてやろう。”

数分前に自分が思ったことが思い出されて、飛影の頬がまた色づく。

「今日は一緒に見れてよかった。」

夕焼けの赤い光の中で、再び微笑みかけられて、飛影は反射的に赤くなった顔を伏せた。

虹なんて、大して珍しいものじゃないのに…。

それでも、その瞬間を2人で居られることが嬉しいという蔵馬の言葉が嬉しくて、返事の代わりに飛影はぎゅっと右手を握った。

「飛影?」
「…さっさと配達に行ってこい。」
「そうだった!急がなきゃ。ほら飛影も乗って。家まで送っていくよ。」
「いい。一人で帰れる。」

その場から動こうとしない飛影の予想外の態度に、助手席のドアを開けようとしていた蔵馬が振り返る。
飛影の視線は俯いたまま、繋いだ手に注がれている。飛影は手を解き腕をそっと引くと、蔵馬の中指と薬指の指先だけをもう一度遠慮がちに掴んだ。

「…その代わり、寄り道するな。夕飯、作って待っててやるから。」

俯いたままでも、蔵馬がふっと笑ったのが聞こえた。

「もちろん。」

次の瞬間、抱きすくめられて飛影は蔵馬の腕の中で体を硬直させた。
住宅街の中で通行人が少ないとはいえ、往来の真ん中だ。誰に見られているかわからない。
抱きしめられた耳元で蔵馬の声が囁く。

「ものすごく急いで帰るよ。夕飯、楽しみにしてる。」
「ば、馬鹿!離せッ!」

パッと腕が離れたと思った瞬間、ふわふわの跳ねた黒髪に素早くキスを落とされた。そして飛影が抗議する暇もなく車に乗り込むと、蔵馬は助手席のシートに乗り出すようにして、開けた窓越しにとびきり爽やかな顔で飛影に笑いかけた。

「ごめん飛影。オレ、ひとつ訂正しなきゃ。」
「…?」
「虹よりも飛影の方がずっと綺麗だよ。」
「…馬鹿ッ!早く行けッ!!」

手をひらひらと振りながら去っていく車のテールランプ。それを真っ赤な顔で睨みつけていた飛影だったが、車が角を曲がるまで見送ると、目元を僅かに緩め、ホッと息を吐いた。

「私も…今日の夕飯、楽しみにしてるから。」

口の中で呟いて飛影は空を見上げた。

近くの雑木林から、ひぐらしの鳴く声が聞こえてくる。住宅街の夕空には二重の虹のてっぺん部分だけがまだかすかに残っている。その下をつっかけサンダルの足音は軽やかに駆けていった。


Fin.

2017年8月 RUMeRALさんの8周年記念のお祝いに。
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