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SS・お話

Milk Tea

 ←101回目の呪い →Stand by me

赤、青、白、金、オレンジ。
次々と色を変え、形を変えていく。ゆらゆらと揺らめく炎は、ひと時として同じ姿であることがない。 パチパチと音をたて時折小さな火の粉を巻き上げながら、踊るように身をくねらせる。

「まだ見てたの?」

蔵馬に笑って言われて、飛影は我に返って顔を上げた。

夕餉の残り香の漂う山小屋風の室内。部屋の隅々に置かれたランプには橙色の白熱灯が灯り、ストーブの上に置かれたポットがシュウシュウと小さな音をたてる。シンプルな板壁の向こうでは、雪がシンシンと降り積もっているというのに、床暖房と薪ストーブに暖められた室内は、半袖でも充分なほど暖かい。
夕飯でお腹が膨らんだ気持ちよさもあって、飛影はもう長いことストーブの前に座り込んだまま、ぼんやりと炎を眺めていた。

やっとまとまった休みが取れたからと蔵馬にここに連れて来られて三日目になる。父親の別荘だというこの場所には以前にも来たことがあったが、雪に閉ざされたこの狭い空間で、蔵馬とふたりきりでこんなに長い時間を過ごすなんて初めてだった。
朝起きて蔵馬の作った朝食を食べ、昼間は日だまりの中で寄り添ってうたた寝をし、日が沈めばやはり蔵馬の手料理の夕食を食べ、食後にはソファで抱き合って、キスをして、とろけるような甘美な夜に我を忘れた。
そんな生活がもう三日も続いている。

こんなことは半年前には考えられなかった。
蔵馬が俺だけを見ている。俺だけに笑いかける。
初めは、蔵馬の声が、視線が自分だけに注がれていることが嬉しくて有頂天になった。
けれどもそのうちに、ムズムズとしたこそばゆさを感じるようになった。蔵馬と一緒にいられることが嬉しくて仕方がないのに、どうしていいかわからない。捉えようのない居心地の悪さを感じるようになった。
飛影はそれが一体何なのかずっと考えていたが、自分でもよくわからなかった。蔵馬聞こうかとも思ったが、うまく説明できる自信もなかった。

「はい。どうぞ。」

ミルクティーの入ったマグカップを飛影に手渡しながら、当然のように蔵馬がその横に腰を下ろす。無垢材の床に敷かれた赤いラグの上で、二人は並んでストーブの窓から見える飴色の炎を見つめた。

「炎とか雪とかってずっと見ていても飽きないですよね。」

手にした自分のマグカップに口に運びながら、蔵馬は独り言とも、飛影に話しかけているともとれるように言葉を紡ぐ。飛影も渡されたマグカップの中を覗き込んだ。飛影好みにミルクを多めに入れたミルクティーは、蔵馬のものよりもやや白っぽい。乳白色の液体を口にふくむと、途端に甘い香りが鼻孔に広がった。熱くて甘ったるくて柔らかな感触が通り過ぎたあとに、僅かな渋みと絡みつくようなミルクの余韻が喉に残る。

「あとは、飛影もかな?」

冗談めかした物言いに、飛影は隣に座る蔵馬を見上げた。変わらずストーブの炎を眺めている蔵馬の顔が、オレンジ色に照らされている。

「何をわけのわからんことを言ってやがる。」
「本当のことですよ。飛影のことはずっと見ていても飽きないよ。綺麗で、純粋で、表情がころころ変わって。」
「馬鹿が…。」

微笑んだ翡翠の瞳と目があって、飛影は慌てて視線をカップの中にもどすと、ミルクティーを喉に流し込んだ。
パチッとストーブの中で火の粉が跳ねる。
蔵馬は、よく恥ずかしげもなくこういった戯言を言う。飛影はそのまま聞き流そうとしたが、あまりに部屋の中も外も静かすぎて、さらに隣から聞こえてきた、呟くような声につい顔をあげてしまった。

「ほんとに、一生見ていたいくらい。」

多分、頬が熱くなったのは、ストーブの熱に当てられたからだ。

オレンジの光に照らされて、翡翠の瞳の中に金色の炎が踊る。
もう、今までもずっと。こうしてこの顔を見上げていた。初めて会ったあの日から。
今から思えば、あの時から既に魅せられていたのだ。

女みたいに綺麗な顔。あどけない少年の顔をしたかと思えば、一瞬で千年を生きた魔物の顔になる。翡翠の瞳はいつも穏やかに微笑みながら、その奥には常に見ることすら叶わない何かを棲まわせていた。俺を茶化す時は少し大きくなるくりくりとした瞳は、ひとたび敵に向けられれば一切の容赦もない氷のような冷酷なさで、貶すんだ者を切り捨てた。
妖狐七変化と云うが、まさにコイツのことだろう。こんなにも多くの顔を持つヤツに俺は会ったことがない。新しい蔵馬の顔を知るたびに、背筋がゾクゾクとした。
そして今も、金色の光を湛えた翠の瞳にどうしようもなく魅入ってしまっている。


ずっと見ていたいのは、お前のほうだ。


蔵馬が目をくるみのように見開いてこちらを振り向いたのを見て、ようやく自分が声に出していた事に気が付いた。

「飛影、声に出ちゃってるよ。」

クックッと声を殺して笑われて、飛影は自分の失言を悔やんだが、一度自分の舌から滑り出てしまった言葉は戻せない。

「でも嬉しい。」

間近に感じる吐息。蔵馬の顔が近い。
翡翠の瞳の中に、踊る金色の炎と惚けた顔をした自分の姿が映る。こうなってしまっては、この目から逃れる術はない。

壁に長く伸びた二つのシルエットが重なる。
そっと飛影の指から離されたマグカップが、フローリングの床でコトリと小さな音を響かせた。


***


…まだここにいる。

肩に感じる腕の重み、直接肌に触れる体温のぬくもりに、飛影はまだ自分が蔵馬の腕の中にいることを知って、つい嬉しくなって小さく身じろぎした。

蔵馬はいつも飛影よりも早く起きる。
昨日も一昨日の朝も、飛影が目覚めた時には、蔵馬は既に起きて朝食の準備をしていた。
けれど今朝は、珍しく蔵馬はまだ寝ている。

飛影はそっと目を開いてみた。
カーテンの隙間から射し込む一筋の光の中で細かな塵が舞っている。静かな寝息と共に目の前で筋肉質な胸板がゆっくりと上下する。ふわふわとした起毛の毛布の中で、男らしい腕が自分をしっかりと抱いている。

あたたかい。ぬくぬくとして、心地よくて、嬉しくて、気持ちいい。
それなのに、なんとも言えずモヤモヤとして居心地が悪い。
以前の自分には想像もつかないほど、一度に沢山のものが自分の手の中にあって、この状況をどうすればいいのかわからない。どうしたいのか自分でもわからない。蔵馬になにかを伝えたいのに、なんと言えばいいか分からない。

「…くらま。」
「なんです?」

独り言のつもりで呟いた言葉にまさかの返事が返って来て、飛影は驚いて顔を上げた。

「…いつから起きてた。」
「ちょっと前からね。」

小さく舌打ちをした飛影に、少し申し訳なさそうに蔵馬が笑う。

「なかなかベッドから抜けられなくてね。貴方があんまり気持ちよさそうに寝ているから、見ているオレまで嬉しくなってしまって。」

また、だ。
また、どうしていいかわからなくなる。ぞわぞわと胸のあたりがざわついて落ち着かない。なにかがつかえているようで、でもそれがなにかわからない。

蔵馬の手が、再び視線を落としてしまった飛影の髪を優しく撫でる。

「飛影…オレとこうしているの、嫌ですか?」

その言葉に、飛影は弾けたように顔を上げて蔵馬を見つめた。

嫌じゃない。
嫌なわけがない。
ただ、俺は…

なにかを言おうと口を開くが、言葉が見つからない。
ただ自分を見つめる飛影に、蔵馬は穏やかに微笑むと、小さなこどもにするように飛影の頭をポンポンとたたいた。

「朝食にしましょうか。ここでの朝食も、もう最後だから、今日は豪華にするよ。」
「最後?」
「オレももっとここにいたいけどね。仕事をずっと休むわけにもいかないですから。人間やるのもなかなか楽じゃないですよ。」

そう言って布団を這い出した蔵馬だったが、ベッドから立ち上がろうとしたところで、ガクンと首を仰け反らせた。

「…ッ痛!ちょッ…飛影!急に髪を引っ張らないで…」
「まだ、だ!」

蔵馬の後ろ髪をしっかりと握りしめたまま飛影が叫んだ。

「まだここに、いろッ…!!」

言ってしまってから、飛影は咄嗟に掴んでしまった髪を離すこともできないまま、自分の口から出た言葉を激しく後悔した。
なぜこんな言葉しか出てこないのだろう?
伝えるべきことは山ほどあるはずなのに、俺は何も蔵馬に伝えられていない。

「飛影、嬉しいよ。」

気がつくと、蔵馬の顔が飛影のすぐ目の前にあった。
骨が折れるかと思うほど思いっきり抱き締められて、胸の奥がキュウッと音をたてる。後頭部の髪をむんずと掴まれて息が止まるようなキスをされた。

「…っふ、ハッ…」

頭が蕩けるかと思う寸前でやっと解放されて飛影が目を開けると、蔵馬が惚けたように笑っていた。
あの冷静冷酷な妖狐蔵馬からは考えられないほど腑抜けきった笑い顔に、飛影はこれが同一人物の顔かと思う。けれど自分を見つめる蔵馬の瞳はどこまでも透き通るようで、綺麗だと思った。背筋がゾクゾクする。

「お腹、空いてないですか?」

蔵馬の問いに、飛影は首を横に振った。
実のところ、ひどく腹は減っていた。けれど、それよりも今は蔵馬と一緒にいたかった。

「じゃあ、もうひと眠りしますか。」

再び蔵馬の腕の中に抱かれて、ベッドの上で毛足の長い毛布に二人でくるまれる。蔵馬は飛影の髪、こめかみ、目蓋とキスをして、それから飛影の顔を覗き込んで、また蕩けた顔で笑いかけてきた。

間抜け面…

そう思いながら、飛影はその顔を見るのは嫌じゃなかった。なぜだかその顔を見ると、こちらまで嬉しいような満ち足りた気分になるのだ。ぼうっと体の中が熱くなって顔が火照る。

「その腑抜けた顔をどうにかしろ。」
「だって飛影がオレの腕の中にいるって思ったら嬉しくて。それにそれを言うなら…」

蔵馬はまた、飛影の顔を覗き込むように見て、ニコニコと嬉しそうな笑いを浮かべている。

「なんだ?」
「いや…なんでもないよ。」

頭の後ろに回された蔵馬の腕に、今度は優しく、慈しむように抱きしめられる。

「飛影、幸せだね。」

飛影の髪に顔を埋めるようにして、吐息まじりに蔵馬が呟いた。

シアワセ…

飛影は、その言葉を聞いた途端、今まで自分の中でモヤモヤとしていたものが、霧が引くように消えていく気がした。

あぁ…そうか。
これがシアワセか…。

「飛影…」
「ハッ…ふっ…」

再び柔らかなキスに口を塞がれて、体の芯が熱くなる。肌に触れる体温が気持ちいい。

こんな簡単なことだったのだ。

次第に深くなる口づけの中で、飛影は腕を伸ばす。直に感じる、温度、感触、息づかい。今この手の中にある シアワセ を力いっぱい抱きしめた。


Fin.

2017/01/25 UP
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